本記事の執筆にあたっては「ぜるけん」様のブログ「Z-KEN's Waste Dump」の記事シリーズ、「キャラクターフォーカス」を参考にさせていただいております。突然のご連絡にも関わらず、快く記事の公開を許諾してくださいましたぜるけん様に、この場を借りてお礼を申し上げます。
(虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会 公式サイトより)
桜坂しずく(読み:おうさか・しずく)とは、メディアミックス作品『ラブライブ!』シリーズの一作、『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』に登場するキャラクターです。東京・お台場にあるという設定の高校「虹ヶ咲学園」に通う1年生の少女で、上記の作品名と同名の同好会に所属し、スクールアイドルとして活動を行っています。
『虹ヶ咲学園〜』の物語はキャラクターの担当声優たちによるライブ、アプリゲーム、漫画、テレビアニメなど数多くの媒体で展開されており、それぞれ少しずつ趣向を変えたスクールアイドルたちの活躍を描いていますが、この記事では彼女たちが登場する最初のきっかけとなったアプリゲーム『ラブライブ!スクールアイドルフェスティバル ALL STARS(以下『スクスタ』)』における桜坂しずくのキャラクターに注目し、彼女がどのような人物で、思考や感性にどのような傾向がみられるのかを研究していきます。
目次
- 『スクスタ』前史における「桜坂しずく」
- プロフィールから見る「桜坂しずく」
- ストーリーから見る「桜坂しずく」
- キズナエピソード
- メインストーリー
- 第1章 みんなで叶える物語
- 第2章 チャンスをつかめ! 〜 第4章 only our shine(後編)
- 第5章 μ'sの秘密を探れ!
- 第6章 勝負の行方 〜 第19章 ゾンビとの戦い
- まとめ
- おわりに
- 参照・画像出典元
- 参照したサイト
- 画像・スクリーンショット出典
- 参考とさせていただいたブログ
- 脚注
『スクスタ』前史における「桜坂しずく」
いちばん最初に「桜坂しずく」というキャラクターが登場したのは2013年、初代『ラブライブ!』から派生してリリースされたアプリゲーム『ラブライブ!スクールアイドルフェスティバル(以下『スクフェス』)でのこと。このときは青藍(せいらん)高校からの転入生*1という扱いでした。転入生としては最初期から実装されていたキャラクターのひとりで、実は『ラブライブ!サンシャイン』のAqoursよりもデビューが早いというのは有名なエピソードですね。
その後2017年1月に実施された「第3回転入生総選挙」でエマ(現エマ・ヴェルデ)に次ぐ2位に輝き*2、後に『スクフェス』4周年記念企画「PERFECT DREAM PROJECT」にてエマ、近江彼方とともに新たなスクールアイドルグループのメンバーとして活動することが発表されました*3。そして『スクフェス』からさらに派生した『スクスタ』で「虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会(以下「ニジガク」)」の一員となり、他のニジガクメンバーやμ's、Aqoursとともに主人公格として活躍します。
2019年12月にはテレビアニメ版『虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』の製作が発表され*4、2020年10月より1期が放送開始*5。2021年5月には2期の製作が発表され*6、こちらは2022年4月から放送された*7ほか、OVA、スピンオフ、そして現在(2024年9月)公開中の劇場版三部作「完結編」へと続いていくことになります。
アプリゲームのオリジナルキャラクターからブランドの正式なメインキャラクターとなり、アニメ化も達成するというシンデレラストーリーを歩んだ「桜坂しずく」ですが、実はそのキャラクターは必ずしも地続きではありません。現在ニジガクで活動しているしずくも他校からの転入生という設定はあるものの、青藍高校や『スクフェス』での転入先である音ノ木坂女学院への言及はなく、元いた学校については不明となっています(ただし、ごく初期に展開されていた4コマ漫画には虹ヶ咲学園への転入前に青藍高校の制服を着ている描写があります)。
(「すごい てん☆ふぇす」第3回・第7回より)
「ニジガク」のキャラクターとして定着してからも『スクスタ』とアニメ版では人物像の描写が大きく異なり、別世界線における異なる人格として描かれています。現在は『スクスタ』がサービスを終了してしまったことや、アニメにしか登場しないキャラクター「高咲侑」の活用といった観点から、どちらの世界線とも明言されない場合は主にアニメ版での描写が基軸となっています*8が、この記事ではあえて『スクスタ』のしずくに着目します。
なぜ「あえて」なのかと言われれば「個人的な愛着」以上の理由はありません。サービス終了から1年以上が経過し、アニメ版でさえ完結に向かって動き出している今日、(同一の世界線と思われるビジュアルノベルゲームの製作が発表されているとはいえ)現状『スクスタ』のレガシーはもはや風前の灯火。この愛着までもが風化していくのを黙って見送るよりは何かの形で残しておきたいという、そんな勝手な想いからです。『スクフェス』でもなくアニメ版でもなく、『スクスタ』の桜坂しずくを推す者として持てる思いをすべて出し切り、彼女のすべてを書き尽くす所存です。
……と啖呵を切っておいて恐縮ですが、実際にはこの記事で「すべてを書き尽くす」ことはできていません。詳細は後述するものの、今回の研究対象は主として『スクスタ』のメインストーリー1stシーズンとキズナエピソード1〜13話のみです。2ndシーズン以降については今後改めて別記事を書くかもしれません。
至らない点は多々あるものの、何とぞ最後までお付き合いいただけますと幸いです。
では、参りましょう。これが『スクスタ』の桜坂しずくだ!
プロフィールから見る「桜坂しずく」
まずは『スクスタ』公式サイトに記載されているしずくのプロフィールを確認してみましょう。
CV 前田 佳織里
スクールアイドル同好会と演劇部と兼部している女の子。
しっかり者の優等生だが、演劇と愛犬の話になると周りが見えなくなることもしばしば。
キャラクター紹介文では「しっかり者の優等生」という長所と、「周りが見えなくなる」という短所が端的に綴られています。それに続く「意気込みコメント」では、しずく本人が以下のように語っています。
みなさん、こんにちは。桜坂しずくです。
私はお芝居をすることが大好きで、学校では演劇部に所属しています。
衣装とかも自分たちで作って、定期的に公演もしてるんですよ。
それから、演劇の役に立つかもと思ってスクールアイドルの活動も行なっていたのですが、
今回、尊敬する先輩に、
『スクールアイドルとして、もうひとつ上のステージを目指してみようよ』
と誘われて、私、気づいたんです。
演劇もスクールアイドルも、観に来てくれた人を楽しませて、感動させて、
そして笑顔になってもらう為の表現の場、一緒なんだってことに。
だから、もっと積極的にスクールアイドル活動に挑戦してみようと思いました!
演劇部で鍛えた表現力を武器に、皆さんを笑顔にできるよう精進していきます。
まだまだ不束者な私ですが、私の精一杯の表現を観に来てくれたら嬉しいです!
よろしくお願いします!
最初に自分の所属を「演劇部」と語っていることも含めて、あくまでも自分の本懐は演劇、スクールアイドル活動はサブという意識が前面に表れていますね。ともすれば「今までは片手間でやっていました」という意味にも取られかねない書き方ですが、それは本来しずくの意図するところではないはず。というのもメインストーリー1章の時点で、かすみの口から「しずくはスクールアイドル活動がしたくて虹ヶ咲学園に転入してきた」「高校生活はスクールアイドルにかけると言っていた」ということが語られているからです。
(メインストーリー1章より)
では、しずくはなぜわざわざこんな持って回った言い方をしているのでしょう? まだ設定が十分に固まっていなかったから、というのもありえなくはありませんが……。
参考になりそうなのは、『スクスタ』リリースに先駆けて展開されていた「虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会 スクフェス分室」の連載第1回。しずくが意気込みコメント収録直前に「あなた」と交わした会話を読むことができ、ここではしずくは以下のように語っています。
「私、知ってます。演劇部の公演、何度も観に来てくれましたよね?
先輩が、私たちのお芝居を見るキラキラした目が忘れられませんでした」
「それだけ本気で、私のことを気にかけてくれているってわかったから、
そんな先輩が一生懸命に誘ってくれたから、
私、今まで以上にスクールアイドル活動を頑張ってみようって思ったんです」
「先輩と一緒に、先輩の夢見ている舞台を目指してみたいって、そう思ったんです。
お芝居とスクールアイドル。違うところはありますけど、
観に来てくれた方に楽しんで欲しい、笑顔になって欲しいっていう想いは一緒ですよね?
私、一生懸命頑張りますから、ご指導よろしくお願いします」
内容にほとんど差はないものの、「もっと積極的にスクールアイドル活動に挑戦してみようと思いました」にあたる部分が「今まで以上にスクールアイドル活動を頑張ってみようって思ったんです」という言い回しになっているだけでもかなり違った印象を受けるのではないでしょうか? これがしずくの素直な心情であるならば、意気込みコメントがああも後ろ向きな言い回しになっていることはますます謎めきを帯びてきます。単に二足のわらじであることへの行きすぎた謙遜という可能性もありますが、ひょっとしたら他にも理由があるのかもしれません。
以下は完全に憶測や空想の領域になるので読み飛ばしていただいても結構なのですが、私が考えついた理由を挙げておきます。それはスクールアイドルへの情熱が持ち味のせつ菜や他校のスクールアイドル(矢澤にこ等)への遠慮から、あえてアピールを控えめにしたというもの。後述するようにしずくは他メンバーの個性を尊重する姿勢の持ち主なので、情熱を語るには自分以上の適任がいると考え、彼女たちと食い合わないようちょっと冷めた雰囲気を出しつつ、自分にしかない「お芝居が好き」という特徴を語るに留めた……という解釈はどうでしょうか?
ストーリーから見る「桜坂しずく」
さて、根拠に乏しい妄想を語るのはこのくらいにして、ここからはシナリオ中におけるしずくの具体的なキャラクター描写を見ていきます。まずはしずくと「あなた」の交流にフィーチャーした「キズナエピソード」(1〜13話)でキャラクターの大まかな成長過程をつかみ、続いてメインストーリー1stシーズンでの活躍に着目していきます。
なお、キズナエピソード14話以降はキャラクターの成長譚というよりおまけのサブプロットという味わいが強くなってくるため、大きく取り上げることはしません。また、本人以外のキズナエピソード等での出番については量が膨大でカバーしきれないため除外します。
メインストーリー2ndシーズン以降については記事を改めて研究を行う可能性がありますが、しずくに関してはキャラクターの新たな一面が見える場面はそう多くなかった印象なので、いったん1stシーズン(厳密にはそれに続く「Intermission」の2章も含みます)のみを参照して論じることとします。
また、参照元である「【スクスタ】ストーリーアーカイブ公式チャンネル」にアップされていないイベントシナリオやサイドストーリーは現状公式に確認する手段がないため、こちらもいったん研究の対象からは除くこととします。
キズナエピソード
(キズナエピソード2話より)
しずくのキズナエピソードは、「あなた」が彼女の演劇に対する愛情の深さを再確認するところからスタートします。幼いころから演じることが大好きで、語りだすと周囲を置き去りにしてなお止まらなくなってしまうしずく。そんな彼女は、ステージの上でも自分の「理想のスクールアイドル」を演じることに全力を注いでいました。
(キズナエピソード6話より)
しかし、他メンバーに比べるとファンからの反響は今ひとつ。「あなた」はその理由を、演技が介在することによってしずく本人のいいところが隠れてしまっているためではないかと分析します。その言葉を受け、しずくはありのままの「自分自身」を表現するパフォーマンスへの挑戦を決意。
(キズナエピソード7話より)
そうして迎えた次のライブで、しずくは緊張しながらも普段どおりの自分の姿を表現することに成功し、観客も今までにないほどの盛り上がりを見せます。が、しずくは浮かない表情でした。理想のイメージには程遠いぎこちなさ全開のパフォーマンスだったにもかかわらず、高い評価を得た事実に戸惑わずにはいられなかったのです。
今まで自分がしてきたことは何だったのか、「私らしさ」がわからなくなったと悩みを吐露するしずくに、「あなた」は他のみんながどんな想いでスクールアイドルをやっているのかを聞いてみてはどうかと促し、しずくはさっそくAqoursのもとへスクールアイドルを始めた理由を尋ねに向かいます。
「あなた」としずくの間には明確な認識のギャップがあったことがわかる場面ですが、それでも前と同じように「あなた」からの提案は素直に実行していますね。流されがちと言ってしまっては元も子もありませんが、信頼を寄せていることがうかがえます。
(キズナエピソード8話・9話より)
Aqoursの発起人である千歌はμ'sへの憧れがきっかけだと答えますが、「μ'sの真似から始めたのか」というしずくの質問には首を横に振ります。μ'sの魅力は彼女たちだけのもので、他の誰にも真似はできない。だから自分たちもAqoursだけの輝きを見つけたいのだという千歌にメンバー全員も賛同します。
続いてμ'sのもとを訪れるも、しずくはお芝居で鳥の役を演じることになったという穂乃果から逆に演技の相談を受けることに。空を飛ぶ気持ちを想像し、夢中になるあまり屋根から飛び降りそうになったという彼女の話をヒントに、しずくは遂にひとつの答えに辿り着きました。
(キズナエピソード9話より)
憧れを持ちつつも自分たちのオリジナリティを追い求める千歌と、真似をするにも形ではなく気持ちから入ろうとした穂乃果。そんな二人の話を聞き、しずくは自分にとっての「お芝居」とは他の誰かの見た目を真似たものにすぎず、自分だけの表現がどこにもなかったことに気づいたのです。
自分だけの表現を模索するべくしずくが取った次のアプローチは、同好会メンバーを観察し、なりきること。あざと可愛いかすみ、元気いっぱいの愛、大人の魅力を持つ果林……それぞれの表現を体験する中でしずくが見つけ出したものは、自分の中に根付いているお芝居への愛情に他なりませんでした。
(キズナエピソード11話より)
これからも「演じること」による表現を続ける決意を固めたしずくは、上辺だけの存在でしかなかった「理想のスクールアイドル」について真剣に考え抜き、心の底からなりきることで、最高の表現を届けたいと宣言します。ノートにびっしりと書き込まれた詳細な設定の仕上げとして、しずくは「あなた」に新曲の作成を依頼し、「あなた」も「二人でこのキャラクターを完成させよう」と喜んで引き受けます。
ところで、この一連の流れでしずくが知恵を借りに行く相手は、沼津のAqours→秋葉原のμ's→同じ学校のニジガクメンバーと、普段の物理的な距離が遠いチームから順になっています。あるいは、距離が近ければ近いほど素直に頼れないとも解釈できますね。そんな中で常に一番の相談相手であり続けている「あなた」への信頼はやはりひときわ特別なものだと言えそうです。
(キズナエピソード13話より)
そうして生まれた新曲『オードリー』を引っさげてのライブで、「あなた」はしずくの真骨頂を目にすることになります。しずくが演じるスクールアイドルは彼女と別人のようでありながら、心の底からお芝居を楽しむ桜坂しずくの姿もたしかにステージ上には存在していたのでした。
(キズナエピソード13話より)
しずくの表現力を見せつけられた「あなた」は、自分らしさを出してみるべきだという以前の自分のアドバイスは間違っていたと謝りますが、しずくはむしろその言葉は自分にとって必要なものだったと感謝を伝えます。自分とは異なる視点からの意見も柔軟に取り入れる姿勢が見えますね。無限の表現を生み出す演技力こそがしずくの最大の長所であると確信を深めた二人は、ふたたび次なるスクールアイドルの役作りのために動き出すのでした。
【キズナエピソードのまとめ】
- 何よりも演じること、自分ではない誰かになりきることが大好き。演技をすること、楽しむことこそがしずくにとって最大の自己表現。
- ただし、当初は形を真似ることばかりに気を取られていて、内面や心情に想いを寄せることをしていなかった。
- 自分にとっての理想のイメージはあるが、それとかけ離れた提案でも柔軟に受け入れる。
- 誰かを頼るときは近くにいる人間ほどハードルが高い。例外は「あなた」で、常に真っ先に相談するなど厚い信頼を寄せている。
*1:他校からスカウトされて主人公グループの学校に転入してきたスクールアイドルという設定である、同ゲームのオリジナルキャラクターの総称。基本的にカードのレアリティは最低ランクの「N」で、ボイスなどは実装されていない。
*2:ラブライブ!スクールアイドルフェスティバル – スクフェス » 第3回転入生総選挙結果発表!!
*3:『ラブライブ!スクフェス』発の新スクールアイドルは、桜坂しずく、近江彼方、エマの3人! | ファミ通App【スマホゲーム情報サイト】
*4:「ラブライブ!」虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会がテレビアニメ化 : ニュース - アニメハック
*5:ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会 1期|作品紹介|サンライズ
*6:テレビアニメ『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』2期制作決定。2022年放送予定 | ゲーム・エンタメ最新情報のファミ通.com
*7:ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会 2期|作品紹介|サンライズ
*8:『スクフェス』の後継アプリ『ラブライブ!スクールアイドルフェスティバル2』など